近年、BtoBビジネスにおいてSMS(ショートメッセージサービス)の活用が急速に進んでいます。SaaSやクラウドサービスにおける多要素認証をはじめ、インサイドセールスによる架電前の事前通知、ウェビナーのリマインド、MAツールと連携した休眠顧客の掘り起こしなど、その用途は多岐にわたります。
メールの開封率が低下傾向にある中、高い到達率と視認性を誇るSMSは顧客との重要な接点として非常に優秀です。しかし、現場の運用担当者から「システム上は送信成功になっているのに、顧客からは届いていないと言われる」という声が後を絶ちません。
こうしたSMSの不達問題の裏には、配信ルートである「国際網」の存在が大きく関わっています。この記事では、国際網を経由したSMSがなぜ日本のキャリアにブロックされてしまうのか、そのメカニズムとBtoB企業が取るべきインフラ選定の基準について解説します。
1. SMSの配信インフラ:国際網と国内網の違い
SMSが顧客のモバイル端末に届くまでには、大きく分けて2つの通信経路が存在します。このインフラ構造の違いを理解することが、到達率改善の第一歩となります。
国際網(海外回線網)ルート
海外の通信事業者や中継サーバーを複数経由して、日本の携帯キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンク等)のネットワークに接続する方式です。グローバル展開している海外製のSMS配信サービスや、低価格を強みとするサービスに多く採用されています。
複数の安価な回線を迂回するため、1通あたりの送信単価を安く抑えられるのが特徴です。
国内網(国内直収)ルート
日本の携帯キャリア各社と直接、正規の接続契約を結んでSMSを配信する方式です。海外のサーバーを経由せず国内のクローズドな通信網の中で完結するため、セキュリティ水準が非常に高く、遅延なく確実にメッセージを届けることができます。
近年発生しているSMSの不達やブロックの大多数は、前者の国際網ルートを利用していることによって引き起こされています。
| 項目 | 国内直収(国内網) | 国際網(国際SMS) |
| 配信ルート | 国内キャリアと直接接続 | 海外の通信事業者を複数経由 |
| 到達率 | 99%以上(極めて高い) | 50%〜80%程度(不安定) |
| セキュリティ | 非常に高い | 送信元偽装のリスクあり |
| 送信元表示 | 固定番号や0120、050番号等 | 不審な英数字や海外番号 |
| コスト | 12円〜18円/通 | 8円前後〜 |
| 適した用途 | 本人認証、重要連絡、BtoB | コスト重視の一斉告知など |
2. なぜ国際網のSMSはブロックされるのか
日本の携帯通信網は世界的に見ても高い品質とセキュリティ基準を持っています。携帯キャリア各社は通信網の安全性を保つため、国際網を経由したSMSに対して非常に厳しい制限を設けており、それには主に3つの理由があります。
巧妙化するフィッシング詐欺とスパム判定の厳格化
近年、実在する企業を騙るフィッシング詐欺が社会問題化しています。これらの悪質なスパムメッセージの多くは、送信元の特定が困難で大量かつ安価に送信できる国際網を悪用して送信されています。
これに対抗するため、日本の携帯キャリアは国際網からのSMSトラフィック全体に対する警戒度を最大レベルまで引き上げています。その結果、企業が正当な業務目的で送信したSMSであっても、少しでも不審な挙動があれば即座にスパムと判定され、ブロックされてしまいます。
迷惑メールフィルターによる機械的な経路遮断
各キャリアは独自のアルゴリズムを用いた強力な迷惑メールフィルターを実装しています。国際網を経由するSMSは、複数の海外サーバーをバケツリレーのように経由して日本へ到達します。
この複雑な経路そのものが、フィルターのアルゴリズムによって送信元の透明性が低いと判断されやすくなります。本文の内容に関わらず、送信経路のプロトコルやヘッダー情報の時点で機械的に弾かれてしまうため、システム側で送信エラーを検知しにくいという事象を引き起こします。
端末側のセキュリティポリシー
キャリアのネットワーク側のブロックをすり抜けたとしても、最後に関門となるのがエンドユーザーの端末設定です。近年は企業のコンプライアンス要件が厳しく、貸与されている法人用スマートフォンなどでMDM(モバイルデバイス管理)を通じて海外からの着信やSMSの受信を拒否する設定が強制されているケースが増えています。
また、個人の端末でも詐欺対策として初期設定でブロックされていることが少なくありません。国際網からのSMSは海外からのメッセージとして判定されるため、この設定が有効な端末には物理的に表示させることができません。
3. SMSブロックがもたらす深刻なビジネスリスク
単価が安いという理由だけで国際網のSMSサービスを導入すると、到達率の低下によって見えないコストやビジネスリスクを背負うことになります。
システムにおける認証失敗と解約の増加
BtoBのSaaSプロダクトやクラウド基盤において、ログイン時のSMSによる二段階認証は標準的な機能となっています。ここで国際網によるブロックが発生し認証コードが届かない事態に陥ると、ユーザーは業務システムにログインできず業務が完全にストップしてしまいます。これはプロダクトの信頼性を根底から揺るがす障害であり、カスタマーサクセスにおける重大な解約要因に直結します。
緻密なマーケティングファネルの崩壊と機会損失
MAツールで見込み顧客の行動履歴に合わせて最適なタイミングでSMSを自動送信するシナリオを組んでいる企業も多いはずです。しかし、どんなに精緻なデータ分析でコンバージョン率を最適化しても、最後の接点であるSMSがブロックされてしまえば施策は無駄になります。商談化率の低下や休眠顧客の掘り起こし失敗など、多大な機会損失を生むことになります。
サポートコストの高騰
重要な通知が届かなければ、当然ながら顧客からの問い合わせが急増します。連絡が来ていないといった問い合わせに対し、サポート担当者が個別に電話やメールで対応することになれば、オペレーションコストは跳ね上がります。通信費を数円抑えた結果、1件あたり数千円の人件費を支払うという本末転倒な事態に陥りかねません。
4. 根本的な解決策は国内直収への移行
これらのリスクを排除し、SMSを確実な通信インフラとして機能させるための根本的な対策は、国内直収(国内網)を採用しているSMS配信サービスを選定することに尽きます。
国内キャリアと直接接続された正規ルートを通るため、前述したキャリアのスパムフィルターや海外受信拒否設定の対象外となります。これにより、到達率は一般的に99%以上という極めて高い水準を維持できます。
また、国内直収のサービスを利用することで、発信元の表示ルールも国内のレギュレーションに準拠させることができ、BtoBの顧客企業に対しても出処の不明な通知ではなく正規のビジネス通知としての信頼感を与えることが可能です。
5.専門家のアドバイス
1通あたり4円〜5円のコスト削減のために国際網を選んでも、到達率が20%下がれば、その分だけマーケティングのCPA(獲得単価)は悪化します。認証用であれば、ログインできないユーザーの離職(チャーン)コストは送信費用の差額とは比較にならないほど高額です。BtoBにおいては『安さ』ではなく『到達保証』を基準にインフラを選ぶことが、結果的に最もコストパフォーマンスが高くなります。
まとめ

国際網経由のSMSは安価である反面、BtoBビジネスにおける重要な通信インフラとして利用するにはセキュリティおよび到達率の面で大きすぎるリスクをはらんでいます。
マーケティング戦略の実行やSaaSプロダクトの認証基盤としてSMSを活用する際は、表面的な1通あたりの送信単価に惑わされるべきではありません。確実に届くことがもたらす機会損失の防止、LTVの向上、サポート工数の削減といった到達ROIの観点からサービスを評価することが、事業成長における重要な鍵となります。



