到達率の高さから国内で不動の地位を築いている「SMS(ショートメッセージサービス)」と、世界標準のメッセージングアプリとして急速にビジネス利用が進む「WhatsApp(ワッツアップ)」。
この2つは、どちらも「電話番号」をキーにする点で共通していますが、ビジネスにおける役割、コスト構造、そして得意とする領域は大きく異なります。 単なる機能の違いだけでなく、セキュリティ基準やAPI連携の柔軟性など、企業導入において検討すべきポイントは多岐にわたります。
本記事では、BtoB事業やグローバル展開を見据える企業の担当者様に向けて、WhatsAppとSMSの決定的な違いをビジネス視点で徹底比較し、最適な導入戦略を解説します。
ビジネスメッセージングにおける2つの巨頭
まずは、企業が顧客にメッセージを送る「A2P(Application to Person)メッセージング」の文脈で、両者の立ち位置を整理します。
SMS:信頼と到達率の「インフラ」
SMSは、携帯電話網の信号線を利用する、通信キャリア標準のサービスです。 最大の強みは「ユニバーサル性」にあります。アプリのインストールが不要で、フィーチャーフォン(ガラケー)から最新のスマートフォンまで、電話番号を持つ全ての端末にメッセージを届けることが可能です。 国内における「本人認証(SMS認証)」や「重要通知」のデファクトスタンダードとなっています。
WhatsApp:リッチな顧客体験を提供する「プラットフォーム」
WhatsAppは、Meta社(旧Facebook)が提供するOTT(Over The Top)メッセージングアプリです。 世界で20億人以上のアクティブユーザーを抱え、欧州、南米、アジアの多くの国で「メールや電話に代わる主要連絡手段」として定着しています。 ビジネス向けには「WhatsApp Business Platform(API)」が提供されており、単なる連絡手段を超えた、マーケティングやカスタマーサポートの自動化ツールとして機能します。
【比較】WhatsAppとSMSの決定的な5つの違い
企業導入において重要となる5つの比較軸(到達率、表現力、コスト、双方向性、セキュリティ)で詳細に分析します。
① 到達率とカバー範囲
SMSは、携帯電話の電源が入っており、電波が届く範囲であればほぼ100%到達します。国内の顧客に対し、アプリの有無に関わらず確実に情報を届けたい場合、SMSに勝る手段はありません。
対してWhatsAppは、相手がアプリをインストールしていることが前提となります。 日本ではLINEが主流ですが、グローバル市場においてはWhatsAppが圧倒的なシェアを誇ります。海外顧客やインバウンド旅行客をターゲットにする場合、Eメールよりも遥かに高い開封率が期待できます。
② 情報量と表現力(Rich Media)
SMSは、全角70文字(長文対応で最大670文字程度)のテキストが基本です。 画像や動画を送るにはURLリンクへの誘導が必要であり、メッセージ単体での訴求力には限界があります。
WhatsAppは、テキストだけでなく、画像、動画、PDF、位置情報、連絡先カードなどをアプリ内で直接送受信できます。 また、「クイック返信ボタン」や「商品カタログ」などのインタラクティブな機能も備えており、Webサイトに遷移させることなく、アプリ内で予約や問い合わせを完結させるUX(ユーザー体験)を提供できます。
③ コスト構造(従量課金 vs 会話ベース)
SMS配信サービスの多くは「1通あたり〇〇円」の従量課金制です。 一方的な通知(ワンウェイ)であればコスト計算は容易ですが、チャットのような往復のやり取りが発生するとコストが嵩む傾向にあります。特に国際SMSの単価は高額になりがちです。
WhatsApp Business APIの料金体系は「会話ベース(Conversation-Based Pricing)」が一般的です。 24時間以内のやり取りを「1セッション」と定義し、そのセッション単位で課金されます。 そのため、短期間に何度もメッセージをやり取りするカスタマーサポートや、チャットボットによる接客においては、SMSよりもコストパフォーマンスが高くなるケースがあります。
④ 双方向コミュニケーション
SMSは、企業から顧客への「通知」には強いですが、顧客からの「返信」を受け取るには、双方向対応の専用番号(長い桁数の番号など)を取得する必要があり、ハードルが高めです。
WhatsAppは、もともとチャットアプリであるため、双方向コミュニケーションが大前提です。 顧客からの問い合わせに対し、自動応答(チャットボット)で一次対応し、複雑な内容は有人オペレーターに引き継ぐといった「ハイブリッド接客」が容易に構築できます。
⑤ セキュリティと信頼性
SMSは電話回線を使用するため、比較的安全ですが、送信元の偽装(スミッシング詐欺)のリスクがゼロではありません。
WhatsAppは「エンドツーエンド暗号化」を採用しており、通信内容はMeta社も含めて第三者が閲覧できない仕様になっています。 また、ビジネスアカウントには「認証バッジ(公式マーク)」が付与されるため、顧客は「正規の企業アカウントであること」を一目で確認でき、フィッシング詐欺への懸念を払拭できます。
ケーススタディ:自社はどちらを導入すべきか?
それぞれの特性を踏まえ、具体的なビジネスシーンごとの推奨ツールを解説します。
シーンA:本人確認・重要通知・督促
推奨:SMS 到達率と即時性が最優先されるシーンです。
- ログイン時の2段階認証(OTP)
- クレジットカードの利用通知
- 支払い期限のリマインド
- 配送予定の通知
これらの用途では、相手がどのアプリを使っているか不明確な状態でも確実に届くSMSが必須インフラとなります。
シーンB:海外顧客へのマーケティング・サポート
推奨:WhatsApp ターゲットが海外(特に欧米、東南アジア、インド、南米など)の場合、SMSやEメールは開封されないリスクがあります。 現地の生活インフラとなっているWhatsAppを活用することで、開封率90%以上を実現することも珍しくありません。
- 越境ECの発送通知・追跡
- インバウンド観光客への案内
- 海外クライアントとの日程調整
シーンC:リードナーチャリング・カスタマーサクセス
推奨:WhatsApp(またはLINE) 顧客とのエンゲージメントを高めたい場合、文字数制限のあるSMSは不向きです。 WhatsAppであれば、新商品のカタログを送ったり、使用方法の動画を送ったりと、リッチなコンテンツで購買意欲を高めることができます。 また、チャットボットを活用した24時間対応のFAQシステムを構築することで、コールセンターのコスト削減にも寄与します。
WhatsApp Business API 導入の注意点
ビジネスでWhatsAppを本格利用する場合、個人用アプリではなく「WhatsApp Business API」の利用が一般的ですが、導入にはいくつかのハードルがあります。
開発リソースまたは配信ツールの契約が必要
APIはプログラムから操作するインターフェースであるため、自社でシステム開発を行うか、APIと連携済みの配信ツール(BSP:ビジネスソリューションプロバイダー)を契約する必要があります。
オプトイン(同意)の取得義務
SMS同様、マーケティング目的でメッセージを送る場合は、事前に顧客から「WhatsAppでメッセージを受け取る」という同意(オプトイン)を得る必要があります。 同意なしに配信を行うと、アカウント停止のリスクがあるため、コンプライアンス遵守が求められます。
テンプレートの事前審査
企業から顧客へ会話を開始する場合(プッシュ配信)、使用するメッセージテンプレートは事前にMeta社の審査を通過する必要があります。 過度な宣伝文句やスパム的な内容は承認されない可能性があるため、ガイドラインに沿った運用設計が必要です。
まとめ

結論として、SMSとWhatsAppは競合するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。
SMSとWhatsAppは、それぞれ得意とする領域が異なります。どちらか一方が万能というわけではなく、用途に合わせて最適に配置することが重要です。
- SMS:確実な通知とインフラとしての信頼性 国内の全ユーザーへ、アプリの有無を問わず「確実に届ける」ことが最優先される場合に適しています。本人認証や重要なお知らせ、支払いリマインドなど、事務的かつ即時性が求められる通知において最強のツールです。
- WhatsApp:リッチな対話とグローバル展開 海外顧客との接点や、画像・ボタンを用いたリッチな接客、チャットボットによる双方向のやり取りを重視する場合に効果的です。カスタマーサポートの自動化や、海外市場でのマーケティングにおいて真価を発揮します。
今後の戦略としては、「確実に届けたい情報はSMS」「顧客との親密な対話はWhatsApp」といったように、メッセージの性質に応じてチャネルを使い分けるのが最も合理的です。
まずは自社の課題が「情報の到達率」にあるのか、それとも「対話の質」にあるのかを明確にし、状況に応じた最適なツール選定を行ってください。




